日本中小企業学会東部部会の第5回研究報告会は、オンライン会議システム「Zoom」を利用して開催され、活発な議論が展開されました。
■日時 2022年8月19日(木) 16:00~17:00
■実施方法:Zoomによるオンライン報告
■参加者:20名
■【研究報告1】
報告者:松井雄史(日本政策金融公庫 総合研究所)
テーマ:「小型衛星開発による地域経済活性化の可能性~福井と九州の事例から~」
司会:堀 潔(桜美林大学)
報告概要:
日本では、地域経済活性化の手段として航空宇宙産業への参入を図る地方自治体や公的支援機関がみられるが、中小企業が実際に航空宇宙産業に参入した例は多くない。こうした問題意識のもと、同じ航空宇宙産業のなかで、コンステレーションビジネスへの期待を背景に急成長している小型衛星の開発・製造と航空機産業を比較しつつ、小型衛星産業による地域経済活性化の可能性が報告された。報告では、福井県と九州の4社の事例から、小型衛星の開発・製造には航空機産業と異なり規制や独特の業界慣行はなく、衛星製造の経験がない中小企業でも参入可能なこと、参入した中小企業は技術力の向上や他産業からの受注が見込まれること、小型衛星に参入した中小企業の存在が、地域に新たなサービスをもたらすことが示された。報告後の質疑応答では、小型衛星産業の市場規模、コンステレーションビジネスにおける中小企業の役割、地域活性化についての自治体の見解、「産業集積」概念との関係などが議論された。
■日時 2022年8月19日(金) 18:00~18:55
■実施方法:Zoomによるオンライン報告
■参加者:18名
■【研究報告2】
報告者:鈴木正明(日本大学)
テーマ:「反平等志向的規範は起業活動を活発にするのか」
司会:堀 潔(桜美林大学)
報告概要:
近年、高度成長期に浸透した平等志向に対する疑義が呈されているとされる。本報告では、生活水準についての反平等志向的な価値観や規範と起業活動との関係に関する分析が議論された。分析に用いたデータは主としてグローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)である。主な分析結果は、①反平等志向的な価値観は起業活動への従事を促すこと、②地域の規範はこのような価値観を有する個人の起業活動に従事する確率をさらに高めること、③このような関係がみられるのは生活の糧を得るために行われる生計確立型の起業活動に限定されること、である。生計確立型の多くは、イノベーションや雇用の創出など起業活動に期待される経済的役割を果たさないとみられる。さらに、生計確立型は廃業の可能性も高いかもしれない。とすれば、起業活動に伴うコスト(廃業コストを含む)がメリットを上回ることもありうる。ここからは、経済全体としてみた場合、反平等志向的な規範の強まりによって起業活動が活発化することは必ずしも歓迎されないという含意が導かれる。報告後の質疑応答では、反平等志向に関する概念や変数の設定や起業活動の分類などについて議論が行われた。