2022-08-19

2022年 東部部会 第4回 研究報告会の開催報告

日本中小企業学会東部部会の第4回研究報告会は、オンライン会議システム「Zoom」を利用して開催され、活発な議論が展開されました。

 ■日時 2022811日(木) 18:0018:55 

■実施方法:Zoomによるオンライン報告

■参加者:23

■【研究報告1】

報告者:額田春華(日本女子大学)

テーマ:「生活に関わる社会的課題解決に取り組む女性企業家たち」

司会:堀 潔(桜美林大学)

報告内容:

起業に関するテキスト等で描かれている起業家と現実の女性起業家とのギャップが感じられる。こうした問題意識に基づき、ソーシャルビジネスやコミュニティビジネスの理論的知見を活用しつつ、生活に関わる社会的課題解決に取り組む女性企業家の分析に関する報告が行われた。女性起業家、ソーシャル・アントレプレナーシップとソーシャル・イノベーション、ソーシャルキャピタル等に関する先行研究が整理されたうえで、事業型NPOのケースを踏まえつつ、社会志向型企業の事例分析のフレームワークが提示された。フレームワークでは、ビジョン有効性、経済性、企業家とスタッフの幸福度を評価の視点として、「公式・非公式の制度的支援」や「地域資源・地域の慣習や常識」の役割が重視される。そのうえで、四つの事例の概要と具体的な分析のポイントが紹介された。報告後の質疑応答では、社会性の具体的内容、地域の範囲の捉え方、非公式の支援の具体的内容などが議論された。


■日時 2022811日(木) 17:0018:00 

■実施方法:Zoomによるオンライン報告

■参加者:21

■【研究報告2】

報告者:江口政宏(商工総合研究所)

テーマ:「中小企業のデジタルトランスフォーメーション」

司会:堀 潔(桜美林大学)

報告内容:

 DXに未着手という中小企業は少なくない。こうした現状を踏まえ、IT関連の経営資源に制約があるなか、中小企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくための手順や留意点、推進方法について報告された。報告の背景には、企業規模や組織構造に合わせて中小企業に適したDXがあるという問題意識がある。

DX推進の前提として、①人材が十分ではない状況や、②すでに使っている既存の開発システムの取り扱いを考慮する必要の2点が指摘された後、「目的と使用ツール」「推進方法」「効果」という三つの観点から2社の事例が整理されるとともに、中小企業のデジタル化の状況に対するシステム開発業者の見方が紹介された。分析の結果、①超短期、短期の対応(市販のシステムの活用、クラウドサービスの活用、DXのビジョンの絞り込み)、②経営者の役割(改善事項の明示等)、③(経営者のITリテラシーが高くない場合など)良質なITベンダーの活用の重要性、という三つのDX推進ポイントが示唆された。報告後の質疑応答では、事例企業の位置づけや評価、IT経営とDXの違い、ITベンダーの役割などが議論された。



2022-08-10

2022年 東部部会 第3回 研究報告会の開催報告

日本中小企業学会東部部会の第3回研究報告会は、オンライン会議システム「Zoom」を利用して開催され、活発な議論が展開されました。

 ■日時 202288日(月) 17:0017:55 

■実施方法:Zoomによるオンライン報告

■参加者:23

■【研究報告】

 報告者:吉原元子(山形大学)

 テーマ:「産地中小企業の「内製か外注か」選択における決定要因」

 司会:堀 潔(桜美林大学)

 報告内容:

産地中小企業の「内製か外注か」の選択における決定要因に関する研究成果が報告された。先行研究では、機械工業集積における取引関係の広域化(地域外への発注の増加)が産業集積全体に影響を与えることが指摘されてきた。地場産業についても、需要の縮小などによって社会的分業の機能が弱りつつあり、製品開発や生産のために必要な工程が立地する産地内で利用できなくなることも十分考えられる。

本報告では、山梨県の郡内産地において、オーガニックコットンを素材とする製品開発に取り組んできた企業が、立地する集積内で利用できない工程を他の産地の企業に外注する動きが報告された。内製か外注かについては取引費用経済学が多くの知見を提示してきたが、事例企業の分析を通じて外注の選択要因として企業の小規模性(設備負担の大きさ)、経営の自律性(取引条件のコントロール可能性)、外部連携の可能性(産地外にも繊維産地は数多い)が指摘された。そのうえで繊維産地間の相互依存関係の拡大を通じて繊維産地が完結型から拡散型に変容する可能性が示唆された。質疑応答では、事例企業の位置づけや各産地が技術技能等の独自性を維持することの重要性などが議論された。




 ■日時 202288日(月) 18:0018:50 

 ■実施方法:Zoomによるオンライン報告

 ■参加者:23

 ■【研究報告2】

  報告者:松下幸生(千葉商科大学)

  テーマ:「中小の部品・製品メーカーにおける劣位性―外注取引関係にある注文生産を

      している企業に対する資源の依存性―」

  司会:堀 潔(桜美林大学)

  報告内容:

 「外注取引関係にある注文生産をしている中小製造企業」の分析における、J.Pfeffer and G.R.Salancikによる、資源の依存性に関する三つの要因理論の妥当性が検討された。三つの要因とは、資源の重要性、資源配分と使用に関する裁量、資源管理の集中である。報告では、組織間関係と「問題性」「効率性」との関係や階層性(「階層化された競争」)などの議論が紹介された後、三つの要因から導出された具体的な観点に基づき、先行研究が整理された。その結果、「外注取引関係にある注文生産」をしている企業についても資源の依存性に関する3つの要因によって解釈できること、発注側企業は発注先企業への依存性を高める状況に対応して逆に発注先企業に対する依存性を低く抑える組織間関係を築いてきたこと(発注先企業同士の過度競争を利用できる仕組みを通じて抑制する行動を講じてきたこと)が指摘された。